1988年~1993年にNTリリースされるまで
WindowsNT開発の道(#1/4)
WindowsNTって言葉を聞いたことのある人は少なくないと思う。
一般のWindowsの上位版程度だと思っている人が一番多いかもしれない。私も最初はその程度の認識だったが、スタートは全然違うものだったんだ。
NTと言うとデビット・カトラーを抜きに語れない。WindowsNTがリリースされた翌年、デビット・カトラーを描いた「SHOW STOPPER!」なる本が出版され当時話題になった。邦題は「闘うプログラマー」日経BP出版センター、初版が1994年12月だ。
邦題のほうが格好良い。プログラマーって言っても日本で言うプログラマーでなくスーパーエンジニアのことだからね。
発売当時は とても話題になったけど読む機会がなかった。この機会に「闘うプログラマー(上・下)」を入手して一気に読んだ。1冊になった新装版(同じ内容)も出ているが、初期の上・下巻別のほうを選んだ。
この本を読んだ最初の感想は、正直物足りなかった😅。昼夜問わず働くハードワークの描写なら、大規模システム開発経験者であれば、これほどじゃないにしても少なかれ経験しているからなんだ。まあ過酷さは比較にならないと思うけど。それとやたら登場人物が多いのも理解を妨げた。
1度目はサラリと上下巻を読み、2度目以降は必要箇所を繰り返し読んだ。何度も要所要所を読み返していると、登場人物の名前を覚えてしまうため理解度が急激に高まる。そうなると半端なく面白い本だと分かった。システム開発者なら一度は読んでも良い本だ。
デビット・カトラー
カトラーは1942年3月生まれ、ビル・ゲイツは1955年10月生まれ。と言うことは、カトラーはゲイツより一回り以上の年上だ。
カトラーの存在は業界内では有名で、カトラーの好戦的で傲慢な性格は当時の情報誌で噂程度に知っていた。ゲイツは性格と年齢差もあって、カトラーとは一線を引いていたようだ。特に親しい間柄ではなく、必要以上に仕事に干渉をせず、純粋にビジネスを通じての関係だったことも本を通じて分かった。
WindowsNT 3.5 (出典:ru.wikipedia)
カトラーは最初、大手化学メーカーのディポン社に入社する。最初はDEC(Digital Equipment社)のマシンでシステムを開発するが、部署を何度か変わりDECのミニコンであるPDPのリアルタイムOSを開発するにまで至る。既に専門特化したエンジニアだよね。ディポンの仕事に満足出来なくなったカトラーは、1971年29歳のときDEC社に移る。
DEC社に移りDEC PDP-11のリアルタイムOSの開発に成功し、高く評価される。更にVAXシリーズのOS VMSを任され これも大成功を収める。カトラーの名前は業界では一躍有名になるって訳だ。ちなみにDEC、PDP-11、VAXはキーワードだよ。このワードを覚えておくと、業界史の複数の本を読んでいると点と点が線に繋がることが少なくないんだ。こんな権威あるDEC社が後にコンパックコンピュータに買収されるなんて、当時の私は信じることが出来なかった。
IBMの歴史関連書を読んでいても、DECのスーパーミニコンVAXは必ず登場する。1980年代半ばになると、IBMの中型メインフレーム市場の強力なライバル機となりIBM大型メインフレームに浸食する。そんなDEC社でOSの開発を任されるんだから つくづくカトラーって凄い人だ。
WindowsNT 3.5 (出典:tr.wikipedia)
そのカトラーはプリズムなる新シリーズの開発責任者になるが、1988年プロジェクトは中止になってしまう。あちこちから干渉を受けDECの企業体質に嫌気をさし、カトラーはDECを辞めようとする。上司に引き留められ、辞めるに至らなかったが、実質上仕事を干されてしまうんだ。
カトラーが干されていることを嗅ぎつけたマイクロソフトはカトラーに声をかける。1988年10月 マイクロソフトにカトラーは入社する。そんな凄いエンジニアがマイクロソフトに加わることにビル・ゲイツは喜んだ。61頁にゲイツは信じられないほど興奮していたとも書かれてある。
ここからNT開発話は始まるって訳だ。
闘うプログラマー
この本は、デビット・カトラーがNT3.1を開発する箇所に焦点をあてている。あくまでもNT(ニューテクノロジー)なるOSを開発をするまでをテーマにしている。
カトラーがマイクロソフトに入社するのは、あくまでも新OSのNT開発だった。
しかし、NTを着手しはじめてまもなく、別プロジェクトが進めていたWindows3.0が高く評価される。姿を徐々に表してくるNTに、ビル・ゲイツはWindowsでも動くようにして欲しいとカトラーに打診する。
カトラーはWindowsを好んでいなかっようで、ビル・ゲイツの依頼を断り続けるが、チームの空気は次第に変わっていく。Windowsの波に乗るべきだと。そのためWindowsのルック&フィールに合わせて統合開発することになる。これを知って何人かの開発メンバーは悲鳴をあげたらしいけどね。
そんなわけで途中変更により過去の資産をひきづりながら開発を進めることになる。恐らくゼロから作るより大変だと思う。既にエラーと分かっているコードも移植せざるを得なかったらしい。
OS/2 と Windows、WindowsNTの関係/クリックで拡大
このあと Windows3.1 と同期を合わせたWindowsNTがリリースされるまでの死闘ドラマが始まるんだ。