1995年12月初版
ビル・ゲイツ未来を語る(#1/4)
1995年12月、「ビル・ゲイツ未来を語る(The Road Ahead 目の前に広がる道)」の日本語版がアスキー出版から発売された。(※)
マイクロソフトのビル・ゲイツが自ら書き下ろした本だっただけに当時かなり話題となった。日本語以外に20か国語以上で翻訳出版された。日本初版が1995年12月11日だ。
日本語翻訳を行った西和彦さんは、本の「あとがき」で、「本が発行された1995年10月にビル・ゲイツは40歳になり、これはまぎれもなくビル・ゲイツの言葉遣いだ」と記述している。
(関連)西和彦 反省記
そして、こうも書いてある。
この本の翻訳権は他の出版社に行ってしまったと諦めていたところ、当時のマイクロソフト日本法人の成毛社長が、「やっぱりケイがやるべきじゃないかとビルが言っている」のリクエストからアスキー出版の西和彦さんが担当することになった。
一度は喧嘩別れした2人だが、かって一緒に一世一代の大仕事を成し遂げた旧友だからね。実にほほえましい。
(関連)ネットスケープナビゲーターの衰退
78~80ページにビル・ゲイツが西さんのことを書いている。自分が褒めたたえている箇所の翻訳は、さぞ気恥ずかしかっただろう。同時に非常に嬉しかったに違いない。
出版までに数年の歳月を要し、さらに1年遅れで出版したため、インターネットが他人事のような記載が逆に拍子抜けして面白い。
と言うのは、間もなくネットスケープナビゲーターとインターネットエクスプローラーのブラウザ大戦争が展開されるからなんだ。
本が出版された1995年12月と言えば、ちょうどWindows95が日本で発売された頃でもある。このWindows95の登場によって多くの業界のビジネススタイルは変わった。Windows95の発売に向けて、急ピッチでインターネットエクスプローラーを開発するもその提供が間に合わなかった。それをMicrosoft Plus!で後付け発売した。
とにかく このブラウザ戦争は業界に関係する人達にとって凄い闘いだったんだ。ビデオデッキで言うVHS陣営(ビクター・松下電器・シャープ・日立など)とベータ陣営(SONY・東芝・三洋・NECなど)の日本企業同士で世界標準を競い合った戦争を思い出す。例えが滅茶古いけど、こちらの戦争はより多くの日本人が直面していたから知っているはず。ホント凄かったんだよ。
マイクロソフトがブラウザ市場を奪い取る仁義なき手法がすさまじかった。訴訟問題にまで発展して、世間からは弱いものいじめと非難され、2000年6月マイクロソフトは敗訴しているんだ。この一連のもたつきは1998年に登場したてのGoogleにとって、とても幸いするんだ。結果的に急成長に繋がったからなんだ。
(※)表紙の遥か後方にまで続く道路は、ワシントン州東部にあるコネルという田舎のまだ未完成のハイウェイ。黄色のセンターラインはこの撮影のために引かれたとか。(暴走する帝国 319頁 翔泳社)
アップデート版の登場
左:初版 / 右側:アップデート版
実は、この「ビル・ゲイツ未来を語る」は、1年後にアップデート版が発行されている。アップデート版を読んでいない私が書くのも無責任だが、ビル・ゲイツは自分のプライドにかけてアップデート版を書かざるを得なかったと思う。恐らくアップデート版には、僅か1年で再出版する理由を冒頭で書いていると予想する。
ビル・ゲイツは初版本では「情報ハイウェイ」なるワードをしきりに語っている。「情報ハイウェイ」は当時のゴア副大統領が国として「情報スーパーハイウェイ構想」として推進した政策で、まさにこの本を執筆中は話題の真っただ中だったんだ。政治に疎い私でも、PC雑誌のあちこちでこの話題が触れられたためしっかり覚えている。
しかし、本が出版され1年もしないうちに情報ハイウェイの話題は下火になってしまう。実現に莫大なコストを要することと、まもなくもっと魅力的なインターネットが登場することが関係する。最終的にはこの構想は頓挫する。
情報ハイウェイ=インターネットと思われがちだが、そもそも異なるものだとゲイツは語っている(P166)。私はずっと情報ハイウェイは、光ファイバーを張りめぐらすことだと思っていたからね。まあ、大きく外れていないと思う。
未来は当たっていたか
ゲイツの書いた内容は、感心する箇所は多々あったが、30年後に再びこの本を読み返すのはかなり苦痛だった。今さら読んでも得るものが殆どないからね。ビル・ゲイツ執筆、大好きな西さん翻訳だったし、当時を回想し、古きを知り今を再認識できたってところかな。
今のコンピュータ技術は、当時のビル・ゲイツが考えた予想を大きく超えてしまっている。恐るべき技術進歩だ。
ちょっとその内容に触れますね。
【余談】1975年にアルテアが登場し、僅か3年ちょっとの1979年に表計算VisiCalcが登場するんだけど、ビル・ゲイツはこんな感想(URL先の茶色の文面)を持っていた。僅か数年後で技術の進歩はこれだからね。人間って凄いよねぇ。